発達障害のある人は睡眠に悩まされる~不眠と眠気からの解放
暮らし 発達障害発達障害によくある悩みの一つは「睡眠」。発達障害児・者は睡眠リズムが乱れやすく、様々な睡眠障害を抱えることも多いです。子どもの場合は、イライラやかんしゃくなどの行動と情緒の問題が、大人の場合も集中力の低下やうつ病等の精神疾患のリスクが高まります。発達障害に多い睡眠の悩みと安眠対策について、私の体験談と実践もふまえて紹介します。
発達障害のある子ども・人は睡眠障害に悩まされる
自閉スペクトラム症やADHD(注意欠如多動性障害)等の発達障害は、睡眠リズムが乱れやすく、睡眠障害に悩まされる方が多いです。原因ははっきり分かっていませんが、一部の脳機能や神経伝達物質(気分や脳機能に作用するホルモン)のアンバランスさ、睡眠や意識に関与する脳部位の未発達等が考えられます。発達障害のある子ども・人に多い睡眠の悩みと障害の代表には、以下があります。
①不眠障害:よく見られる眠れない病です。種類には、入眠困難(寝付けない)、中途覚醒(途中で目が覚める)、早朝覚醒(眠りが浅く早く目が覚める)があります。
②過眠障害:逆に長時間寝てしまう状態です。たくさん眠ったにも関わらず、満足感は得られず、昼間も眠気と倦怠感が治まらないのが特徴です。
③悪夢障害:その名の通り、悪夢に苦しめられて安眠できない状態です。
④概日リズム睡眠障害:朝と夜の睡眠と覚醒リズムが乱れる状態です。昼夜逆転等がこれに当てはまります。
私も、幼少期から中学校に入るまでの間は、夜「眠れない」ことに悩まされました。記憶を辿ってみると、朝はちゃんと起きることはできていましたし、夜寝る前テレビに夢中になったわけではないのにも関わらず、あの頃はどうしても眠れなかったのです。夜眠るはずの時間を過ぎても、当時幼かった私の意識はずっと覚醒したままか、暗闇が怖くて眠れませんでした。同じベッドで寝てくれた母が本を読み聞かせてくれても、音楽を流してみても、部屋の灯をオレンジ色に明るくしても、中々寝付けませんでした。
しかし、不思議なことに眠りが浅く睡眠時間が足りていなかったにも関わらず、当時の私は起床と登校、授業を受ける時は特に眠気や疲れも感じませんでした。日常生活に特別支障は感じませんでしたが、「眠れない」、「夜一人で暗闇にいるのが怖い」せいで、小学校5年生になるまでは、一人で暗い部屋のベッドに横たわるのが嫌で、母か誰かと一緒でないと眠れませんでした。発達障害の子どもに限った話ではありませんが、睡眠時間が足りていないと、以下の問題が生じやすいです。
・イライラやかんしゃく等、問題行動の悪化
・集中力の低下や多動性と衝動性の悪化
・抑うつ気分や不安、緊張、パニックの促進
・特に「成長ホルモンやメラトニンの低下」によって、脳と体の「回復力と免疫機能の低下」、睡眠リズムの乱れが生じます。発達障害の子どもによく見られる問題行動やかんしゃくには、睡眠時間の乱れとホルモン低下から生じる心身の不調が一因にあると考えられます。
発達障害のある子ども・人も必見!睡眠対策①
発達障害の方はもちろん、睡眠に悩んでいる人達に必見、私も一部実践している睡眠対策について紹介します。テレビでも聞いたことのある話から、人によっては初めて聞く話もあるのかもしれません。ポイントとして、眠りは量よりも「質」が大切です。就寝前は、自律神経系の副交感神経(リラックスに関与する)を促すことで、眠りやすくなります。
①過度なストレスをため込まないことです:一日の失敗や嫌なことを眠る直前にまで持っていくと、そのことが頭を巡り神経が興奮するため眠れません。ストレスの原因を取り除くのは簡単ではないのかもしれません。誰かとグチを語り合う、悩みを相談することも大切です。それすら難しい場合は、好きな音楽やほっとできる飲み物、風呂に入る、マッサージするなど、せめて体を労わってあげましょう。
②トリプトファンを多く含む食事でセロトニンを増やす:①とも通じますが、ストレスや疲労、うつ病を抱える人は、脳内のセロトニン(眠り、意欲、安心等)が不足している人が多いです。セロトニンのもとになるトリプトファン(アミノ酸の一種)を多く含むバナナやナッツ、チョコレート、種子、乳製品、豆類、肉や魚を食べるのがおすすめです。ただし、トリプトファンがちゃんと脳へ運ばれるには、炭水化物(糖質)も一緒に食べることです。炭水化物を摂取するとインスリンが分泌され、他のアミノ酸が筋肉中に取り込まれることで、トリプトファンも一緒に脳へ運ばれます。
③ノンカフェインのハーブティーやホットミルク、梅昆布茶がおすすめです:ハーブティーはリラックス効果を促す香りがあり、梅昆布茶に含まれるナトリウムやカリウム等には疲労回復とリラックス効果もあります。私は普段から冬も夏も麦茶を飲みます。麦茶はカフェインゼロなうえに子どもにも飲みやすく、冷やして飲めば体を冷まし、温めて飲めば体を温めてくれるのでおすすめです。カフェインは脳をますます覚醒させてしまいます。さらに酒類は、眠りに入りやすくはしてくれますが、眠りの質を下げるので要注意です。
④寝る時間よりも早い段階で、部屋の照明を暗くしましょう:部屋の明るい照明の他、スマートフォンやパソコン、テレビ等のブルーライトは、睡眠を促すホルモンであるメラトニンの分泌を抑制してしまいます。私もできる限り見ないようにしますが、連絡やカレンダーのチェックなど確認しないといけないことがあります。そんな時は、せめてものブルーライトをカットする眼鏡をかけることにしています。人付き合いよりものの扱いやシステムを好む自閉スペクトラム症や、ドーパミン不足から刺激を求めるADHDの人は、ゲーム依存症にもなりやすいため注意が必要です。
⑤お風呂は寝る前30分ぐらい、温度は40度のぬるま湯がおすすめです:入浴直後では、深部体温が高いので、深い眠りに入り辛くなります。私は長風呂と熱い湯が苦手なので、40度が丁度良いです。しかも、風呂の温度が40度を超えていたり、シャワーだけで済ませたりすると交感神経(興奮、覚醒に関与)が働いてしまいます。夏場は、冷房で部屋を適温(28度が目安)に保ちます。人の体は眠りに入ると体温が下がり、冷房がききすぎると、「体を冷やしてはいけない!」、と深部体温が上がって眠り辛くなります。
発達障害のある子ども・人も必見!睡眠対策②
⑥自己暗示をやってみましょう:これは私自身が一番効果的だと思っています。どうしても眠れない時は、「何があっても目を閉じない」、と逆のことを考えることで眠気を促したり、「暗い部屋で瞳を閉じて寝転がるだけでも回復できる」、と考えたりすることで気を楽にします。そうしていると、自然と眠れます。睡眠対策をしっかりすることは良いことですが、あまりに完璧を求めて根詰め過ぎるのも、ストレスや不眠をかえって促します。何事も無理のない範囲でほどほどにやってみる、と気楽に構えるのがいいのかもしれません。
⑦やわらかい素材の毛布や抱き枕を活用しましょう:発達障害で、特定の素材(とくに柔らかくてふわふわした)を好み、執着する子ども・人は多いです。私も今は一人で眠れるようになりましたが、ふわふわと肌ざわりの良い抱き枕をいつも必ず抱いて眠ります。柔らかなぬくもりに包まれることで、抱き締めてもらえているような安心感で眠りに導かれます。感覚過敏で親に抱っこされるのが苦手な子どもが、ふわふわしたものが好きな場合、親の代わりにぬくもりを求めているのだと思います。
⑧その他リラックゼーションを実践:寝る前はクラシック調の穏やかな音楽を聴く、軽めのマッサージやストレッチ、めいそうと呼吸法など、自分に合ったリラックゼーションを試してみましょう。
⑨朝の定時に朝陽を浴びましょう:朝陽を浴びることによって、心身が朝起きるモードに覚醒するだけでなく、夜寝る前にメラトニンを出しやすくもしてくれます。遮光カーテンなどは、太陽光が入ってこないので注意です。窓や部屋が小さく、太陽光が入り辛い場合は、部屋の灯りやスマートフォン等の光で代用してもいいと思います。
⑩適度な運動をしましょう:私は、朝に用事がない日は、起きて歯を磨いてから外へ朝ウォーキングに出かけます。運動することによって交感神経も働き、身も心も覚醒できます。
補足ですが、睡眠時間に8時間は必要というのは、あくまで平均の話です。10時間以上は眠らないといけない長眠者(ロングスリーパー)や、6時間~3時間ほどで満足する短眠者(ショートスリーパー)等、実は個人差があります。日常生活や仕事に支障が出ておらず、普段から頭がすっきりしていれば問題ありません。色々な睡眠対策をやってもなお改善がみられない場合は、睡眠障害かそれを伴いやすいうつ病などの精神疾患もしくは身体疾患などが考えられます。その場合は適切な受診と治療をおすすめします。最近は、睡眠外来というクリニックや、比較的依存性の低いオレキシン系睡眠薬等の新しい薬もあります。
まとめ
発達障害のある方を悩ませる睡眠とその対策について、以下にまとめます。
・発達障害の人は眠れない、眠りが浅い、目が覚めてしまう、朝起きれない、日中眠い、悪夢を見るなど、様々な睡眠とリズムの問題を抱えやすいです。
・睡眠対策として、ブルーライトや熱すぎる風呂、過度なストレス等、交感神経を興奮させる刺激を控えることです。
・睡眠の質と生活リズムの改善のために、リラックスを促すノンカフェインドリンクや音楽、軽い運動、トリプトファン豊富な食事と炭水化物の組み合わせ、ふわふわ素材の毛布や抱き枕、朝陽を浴びる等の工夫ができます。
・色々な工夫をしても改善が見られず、日常生活や仕事に支障が出ている場合は、睡眠外来等の受診と治療が必要かもしれません。
発達障害のある人・子どもに限った話ではありませんが、現代社会はストレスが多く、睡眠にまで気を遣う余裕がどんどんなくなっています。私自身も、上記に挙げた睡眠対策全てを毎日実践できているわけではありません。
それでも、日々ストレスを抱え、周囲に気遣うことの多い発達障害のある子ども・人には、せめて夜眠る時は、穏やかな時間と夢を過ごせたらいいな、と願います。
皆様の安らかな眠りのために、少しでも参考になれば幸いです。ご拝読ありがとうございました。
参考文献
・日本精神神経学会(日本語版用語監修)『DSM-5精神疾患の分類と診断の手引き』医学書院
・星野仁彦(2012)『発達障害を見過ごされる子ども、認めない親』幻冬舎新書
・越野好文・他(2011)『好きになる精神医学』講談社
・小池弘人監修『オトナ女子の不調をなくすカラダにいいこと大全』サンクチュアリ出版
・岡田尊司(2014)『うつと気分障害』幻冬舎
・「快眠ジャパン」
http://www.kaimin-japan.jp
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