精神科デイケア、医療法人上島医院の多彩な取り組み
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大阪府大阪狭山市にある医療法人上島医院のデイ・ナイトケアセンターでは、精神科デイケアとして様々な取り組みに力を入れています。時には居場所として、時には社会復帰に向けた就労支援の代わりとして、医療と地域の狭間に位置する特殊な立場にあります。その取り組みについて、経営企画課の中谷信哉さんに伺いました。
元引きこもり経験者が旗振り役
「もともと、高齢者や統合失調症の方が生活の一部として利用されていました。その反面、社会復帰や就労を目指す若者は少なく、勤め始めた頃は30代前半の利用者が1人いるかいないかでした。利用者目線では高齢者向けのプログラムばかりで仲間も少なく、自分たちが通所する意味を感じられません。そういう方々にも合った居場所があればと思い、居場所の多様化に努めてきました。今の利用者層は10代から40代までと幅広いです」
──駅から距離があるぶん送迎にも力を入れているそうですが
「電車やバスへの恐怖感、引きこもり傾向、そして高齢者の方も利用されるため、個別送迎などに力を入れています。シニア層の日常生活の一部としての利用は伸びていますが、若年層の利用も増やしていきたいですね」
──支援員も多様化するといいかもしれませんね
「キャラクターや個性もさまざまな方がいていいと思います。信頼関係が築きやすいというか、結局どれだけ良いコミュニティでも、担当スタッフとの信頼構築が弱いと人は寄り付きません。どちらも重んじることで、頑張って来てくれる方が増えます」
──ピアサポーターについてはどうお考えですか
「まず、私自身に引きこもりの経験があります。中学2年の夏から約5〜6年は一歩も外に出られなくなり、その後3年かけて認知行動療法などを受け、高卒認定を経て大学に進学し、企画や広告を学びました。その後、上京して働いたのですが、職場環境も同棲していた彼女との関係も厳しくなり、大阪へ逃げ帰って2度目の引きこもりとなりました。2度引きこもった自分に疑問を抱き、引きこもり支援を学び始め、ボランティアもスタートさせました。そこからアルバイトを経て正社員となり、現在に至ります」
「私は“支援”という言葉を好みません。自分が当事者である中で、皆で一緒にやっていくのだと思っていましたし、外から促したり上から支援してやるような態度は苦手です。支援者として活動しているうちに当事者感覚が失われていくのでは、という懸念もありました。当事者でなければ自分は何なのか――そんな思いもあります。引きこもり界隈に来たのは、自分の当事者体験を活かさなければ、引きこもってきた約10年が本当の無駄になると恐れたからです。『それでも得るものはあった』と慰められても、10年分の人生経験を丸ごと無駄にしている感覚は消えません。自分の人生を受け入れるにはピアサポートをしなければと思い、自助会から始めました。『支援はしない。皆で同じことをする。立ち寄る目的だけは作る』というスタンスでした。『目的がなければわざわざ来ない』と言われることもありましたね。そうして訓練っぽさをなるべく排除したプログラムを作ってきています」
狙いは、気付けば社会復帰しているような感覚
──コミュニティは誰が企画していますか
「就労支援は専門スタッフが担当しますが、それ以外は私が企画しています。企画者としてシンプルにメンバーの声を拾うことを重んじています。例えば、2か月に1回集まってやりたいことを話し合い、10人いれば10人分の“やりたいこと”を集める取り組みがあります。企画して運営して広報して…とやっているので経営企画課と名乗っています。昔も今も力を入れているのは、『通う目的』と『人の魅力』を創出し続け、気持ちを途絶えさせないことです」
──プログラムの具体的な内容を教えてください
「大きく分けると“居場所系”“ワーク系”“部活系”、そして一般的なデイケアがあります。どのくらい参加するかは人それぞれで、決まった曜日にしか会えない人もいますね。生活の一部として来られる方もいる以上、食事の質は落とさないよう努めています」
「ワーク系は休職中の方が多いのですが、就労経験ゼロから始めている方も一部いらっしゃいます。直近のプログラムでは半数が職を持っており、モヤモヤを吐き出しに来る傾向もあります。部活系のボードゲームはあまりに人気が高いので枠を増やしました。ボードゲームカフェ顔負けのラインナップになっていると思います」
──どのプログラムもデイケアの括りに入りますか
「入ります。掛け持ちで受けている方も多いですね。食事をして、居場所に行って、部活に参加して――という流れです。結局、皆さんの課題のほとんどはコミュニケーション面なので、あの手この手で集団行動を行い、会話に慣れていくのが私の方針です。例えばボードゲームでも、ゲーム上でなら会話できる方がいらっしゃいます」
──コミュニケーションのきっかけにはなりそうです
「望むことを一緒に形にし、動機づけを積み重ねることで、いずれゴールへの土台になる。それが隠れた目的です。“社会復帰しよう”と意識するのではなく、“気付いたら社会復帰していた”と感じてもらうのが狙いです。私が思うに、社会復帰の目的はお金よりも別の動機づけが多いのではないでしょうか。やりたいことや役立ちたいことといった動機づけがないと定着しないと思います。お金のためではなく自由のために行動し、その過程でお金や体力が必要となるうちに、いつの間にか社会復帰しているというのが理想です」
──反応が来なくて不安な支援者と、反応する余裕のない利用者、両方の心情に理解がおありですね
「それなりに失敗経験もあります。レギュラーメンバーが成長しすぎて全体の雰囲気は楽しくなりましたが、その雰囲気が却って苦手だという方に敬遠されたこともあります。この反省を踏まえ、楽しませ過ぎないこと、リアクションを求めない場所づくりで過去の失敗を取り返している最中です。成長と楽しさ自体は否定しませんが、そのせいで寄り付きにくくなるのは避けたいですね」
居場所作りは土台作り
「精神科に繋がりたくないとか、薬を服用したくないとか、そういった通院を遠ざける要素を取っ払って多くの人が利用できる形にしたいとは感じていました。そのせいで心理教育には弱みがあります。それでも包括できる場所を、デイケアで抱えきれないのなら会社を立ち上げてでもと思うことはありますね。私も医院も、これから成長していかねばならないでしょう」
──利用者がここを知るきっかけは何が多いですか
「診察で先生にお勧めされて繋がる方が多いです。他には外部の支援者様の紹介で繋がる方や、
私が取り上げられたYouTubeニュースを見たことをきっかけに電話してくださる方もいます」
「ひきこもりの方については、「引きこもりは“状態”」であって、疾患や障害ではないので、精神科に繋がり辛い方もいます。このような繋がりの無さを越えたいのが本音です。介護のイメージが先行し、まだまだ精神科デイケアの知名度が低いことも否めないので、診察無しでも無料で3回まで体験できるようにし、診察以外からデイケアを知る機会を増やしています」
──新規利用者の募集はしていますか
「デイケアは医療行為である以上、診察との連携が前提です。ただ、通院や服薬以外で居場所支援として良くなっていくのであれば、という姿勢で取り組んでいます。医療と地域の狭間にある以上、地域の居場所として通い続けると治療の長期化と見られることもあるでしょう。それでも私は、彼らなりの生活を尊重するつもりです。数年で自然と卒業していく方々もいらっしゃいますけれども」
──具体的に将来何をしていきたいですか
「社会復帰や就労ありきではない支援を、まずは大阪府全体に普及させたいですし、デイケアへの理解も広げていきたいです。『現状を話すだけでは意味がない』『認知行動療法や服薬のほうが大事』とも言われますが、それも理解できます。ただ、土台がないのに上位の支援を受けようとするのは、キャッチボールもできないのにホームランを打とうとするようなものです。基礎となるコミュニティ支援が普及していけばいいですね。支援ではなく、企画や広告の視点から広めていけたら面白いと思います。ピアや当事者の視点は患者や利用者に最も近いはずなので、その視点で企画を立てれば、必ず取っ付きやすい形になると考えています。同じ視点を持つ仲間も増えてほしいですね」
医療法人上島医院 デイ・ナイトケアセンター
https://ueshima-iin.com/care_center


