発達障害者はレジリエンスを身に着けた方がいいんじゃないか?と感じた理由
発達障害
出典:Photo by Tom Pumford on Unsplash
実はわたし、年季の入ったフィギュアスケートファンです。先日「そういえば、わたしってもう何年くらいフィギュアスケートのファンをやっているのだろう」と思い返したところ、もう20年を超えていました。
競技への愛が溢れすぎて、試合やアイスショーを見に行くだけでは飽き足らず、フィギュアスケートを題材にした小説や漫画も大体チェックしています。
「この主人公、どことなくシンパシーを感じるなぁ」
比較的最近アニメの第1シーズンの放映があり、2026年1月から第2シーズンの放映が開始する「メダリスト」というフィギュアスケートを題材とした漫画があるのですが、わたしは原作を最近まで読んでいませんでした。
今考えてみると、なぜ読んでいなかったのか不思議になるのですが……
しかし、とある動画サイトでたまたま「おすすめ」に出てきたアニメを見たことをきっかけに、原作にもハマってしまいました。
フィギュアスケートを取り扱った作品としては珍しく、10歳前後の選手たちの試合の様子や、その選手達に求められるエレメンツ(要素)などの解説があるほか、主人公にある特徴があります。
それは「フィギュアスケート以外のことが病的にできない」という特徴。
主人公がドジっ子属性の少女漫画はたくさんあります。例えば「ガラスの仮面」の北島マヤは、作中で手先が不器用で運動も苦手という描写が何度も繰り返されますが、それでも彼女の場合は「不器用なドジっ子」の範疇に収まるでしょう。
しかし「メダリスト」の主人公、結束いのりのエピソードは、そんなものではすみません。
小学4年生の時点で九九がわかっていない、漢字がかけない、頻繁に忘れ物をする、宿題や課題の提出期限がまもれない。
中学校に進学したあとも、数学については個別に支援を受けていたり、数学の提出物を自己判断で提出しないといった様子が見られます。
ゆえにクラスメートから「いのりちゃんと一緒のグループになりたくない」、グループ課題についても「いのりちゃんは何もしなくていいから」と、仲間外れにされる様子が第1話で描写されています。
この描写から「結束いのりは発達障害(あるいはグレーゾーン)を前提としたキャラクターではないのか」とネットで噂されたこともありますが、作者はこのことについて何も触れていませんし、そもそも物語の主題は「いのりが発達障害か否か」というところにはありません。
しかしネットの海を漂ってみると、発達障害児を育てる親御さんが、クラスメートから遠巻きにされるいのりの描写に「うちの子もきっとこんな風にされてるのだろう」と心を痛めている様子がチラホラみられました。
小学校時代夏休みの提出期限が守れず、9月に入ってから課題を何度か提出したことのあるわたしが、いのりにシンパシーを感じたのは想像に難くないかと思います。
そして最近ファンの間で話題となった53話を読み、ますます「この漫画、連載終了まで見届けなければ!」と決意を新たにしました。
漫画を読んでいたら飛び込んできた「レジリエンス」というワード
※原作53話までのネタバレを含みます。
53話は全日本ジュニアという大きな大会が終わった直後の話です。全日本ジュニアで惨敗したいのりは、コーチである司先生とした約束「どんなに焦っても学校をさぼらない」という約束を破って学校を休み、リンクに練習に来ています。
いのりが全日本で惨敗したのは、姉のように慕っていた「いるかちゃん」が、全日本ジュニアの直前練習で大けがした瞬間を見てしまったことによる動揺が原因です。
そのいるかちゃんは、全治3ケ月の骨折のため入院を余儀なくされ、以前にも起こった失語症が再発してしまいました。加えて、せっかく決まりかけていたスポンサー契約も調整が必要になり、今シーズン残っている試合も全て棄権しなければなりません。
いるかちゃんのコーチである誠二先生から、彼女の状況を聞かされた司先生は「こんな絶望の中にあるときでも笑顔だなんて。自分だったら、とても笑顔は作れない」と本音を漏らすのですが、その時に「作れないといってる場合ではない、やるしかないんだ」と誠二先生から叱咤されます。
誠二先生は更に「不幸は突然やってくるものだから、立ち向かうのはとてもむずかしい。でも、日常的に訓練していれば、不幸が起きても絶望は回避できる」と司先生にアドバイスをします。
最後に「レジリエンスって知ってる?」とヒントを与え、それを知ることがあなたのコーチとしての伸び代だと励ますのでした。
さて、ここでコラムの主題である「レジリエンス」がやっと出てきたわけですが、レジリエンスとはいったい何でしょうか。
調べてみたところ「打たれても回復する力」「心のしなやかさ」と説明されていることが多いようです。
なぜ発達障害者がレジリエンスを身に着けたほうが良いのか
発達障害が世間に知られるようになってから、随分時間がたちました。どうもネット上では「周囲に迷惑をかける『困ったさん』」と忌避されやすいのですが、同時に「発達障害者には合理的配慮が必要だ」という理解も少しずつ広がっています。
そして近頃は「発達障害者はこれまで失敗体験を何度も繰り返してきたので、失敗しても落ち込ませないようにしよう」と声高に訴えるひとも出てきました。
「それって、いい合理的配慮かも!」と思った当事者の皆さん、実はこれ、かえって良くない方向に作用することもあるのです。
なぜならば、大きな悲しみや怒りを感じるような出来事は人間なら誰でも経験しますし、社会人ならば苦手なことでも、時に歯を食いしばってやらねばならないときもありますよね。
その結果、大きな失敗をしたり不安な気持ちにかられ「こんなことが起こるなんて、もう自分はおしまいだ」「どうして自分は失敗ばかりして周りに迷惑をかけるのだ」と激しく落ち込んだり、必要以上に自分を責めてしまう人は多いのではないでしょうか。
しかし、不幸に落ち込んでなかなか立ち直れないときや、失敗して自分を激しく責めているときに、自分に気を配って優しく接してくれる人が、いつでもいるとは限りません。
更に、失敗や不幸が起こるたびに過度に落ち込んでいては、体調悪化につながったり、自己肯定感が損なわれたり、二次障害としてうつ病を発症してしまったりと、いい事はひとつもありません。
大切なのは、たとえどん底まで落ち込んでも「しなやかに心を回復させる力」を付けることです。
そうすることこそが、メダリスト53話で示された「レジリエンスを身に着ければ、不幸が起きても絶望は回避できる」につながるのです。
53話でのいのりは、重要な試合で惨敗したことだけでなく、日常生活での小さなつまづきが積み重なり「心の中で、出来ない自分への悪口をいっぱいいい続けて、すごく苦しい」状態でした。
こうした精神状態になったことのある発達障害者は、たくさんいると推察します。
わたし自身もこの下りを読んでいて「分かるよ、いのりさん。自分に対して悪口をずっといい続けるのって、しんどいよね」と思わず感情移入してしまって、すこし泣きそうになりました。
うまくできない自分に落ち込むいのりに、司先生はアドバイスをします。
「今までは失敗したときのことを考えないようにして気持ちを高めてきたけど、どうしてもうまくいかないときはある」
「理想じゃない現実がやってきたらどうすればよいか、どうしたら回復に向けて立ち上がれるか?」
「将来一番大事な試合で、最高の自分でいるための訓練になると思う。メダルとは違って、レジリエンスは経験すれば必ず経験値が獲得できる」
司先生のいう通り、レジリエンスは後天的に身に着けることが可能です。基礎的なところとして「毎日3食栄養バランスの取れた食事を取り、薬を指示どおり服薬し、充分な睡眠時間を確保し、適度な運動を取り入れる」ことがあげられます。
「そんなこと簡単にできるじゃないか」といぶかる人もいるかも知れませんが、これをきちんと長期間続けるのは実は結構大変なのです。
その他「自分を真にリラックスさせられる対処方法をたくさん持つ」「家族や友人から社会的なケアやサポートを受ける」「自己理解を深め、自分に合った目標設定をおこなう」など、レジリエンスを身に着ける方法は探せばいくらでもみつかります。
失敗したり不安になるたびに「出来ない自分への悪口」をいい続けて落ち込んでいるよりも、失敗にしなやかに対応し、目の前の問題を乗り越えて自己肯定感を高める方法を、これから探してみませんか。
【レジリエンスとは?リワークで重視されるストレス対処法について解説】
https://cocoromi-mental.jp
【発達の凸凹を変える必要はない。「大人の発達障害」との上手な付き合い方??明星大学 竹内康二教授】
https://www.awarefy.com/coglabo
【メダリスト】
https://afternoon.kodansha.co.jp


