発達障害者の物件購入が難しい2つの理由

発達障害 暮らし
Photo by Luke van Zyl on Unsplash

発達障害者にとって最も難しい事のひとつが物件の購入です。そもそも物件を購入するという行動自体が、発達障害者の大部分と縁の遠いものとなっています。

発達障害者が物件購入で躓きやすい主な理由は、「年収」と「団信」です。年収面は言うまでもないでしょう。発達障害者の平均年収は236万円とされ、脱ワンルームすら難しいと思われます。そして団信は、発達障害者にとって大きな関門となり得る存在です。

物件購入の最後は早い者勝ちと言われており、それ自体に差別も配慮もありません。それにも関わらず、選択肢が少なく二度手間三度手間を強いられて後手に回ってばかりとなると、やはり発達障害者は不利と言わざるを得ません。

なお、本稿でいう「発達障害者」は知的障害を伴わない、精神保健福祉手帳だけ交付された状態を指すこととします。いつか、発達障害者と住まい探しの二単語が自然と繋がるようになればいいなという願いを込めて、ついでに実録も兼ねてこのコラムを贈ります。

年収がない=選択肢がない

先述のように、発達障害者の平均年収は236万円ですが、そこまで貰ってないという当事者は多いでしょう。この数字を盛っているのは、言語障害や協調運動障害の当事者ではないかと思われます。彼らは担当業務が幅広く配慮事項も少ないため、雇うにあたって人気が高く、収入面で身体障害者を上回ることも多いそうです。

とにかく、発達障害者の住まい探しは年収200万クラス、住宅ローンの目安は年収の5~6倍とされているので、1000万~1200万円辺りが中心になるでしょう。この時点でワンルームより条件のいい物件を見つけるのは至難の業です。当然、表示価格はリノベーションへの考慮などしていないので、実際住むための必要額は更に上がることが多いです。

また、物件探しにニッチ需要などというものはなく、「自分の欲しいものは他人も欲しがる」のが常識です。その為、同じく物件を探している健常者と争わねばなりません。健常者の平均年収は発達障害者の約2倍で、選べる物件も本来多い筈なのですが、なぜか発達障害者でも手の届く安物件を狙うことがあります。そして、簡単に攫ってしまいます。

とにかくこの「低収入問題」は、後述する団信との相性の悪さよりも根が深く改善の余地が少ない問題です。なにせ発達障害者の収入難を改善するには「仕事就けなくて当たり前」「非正規で当たり前」という風潮を破らないことには始まらないからです。

団信に嫌われがち

住宅ローンを借りるには、原則として「団信」に入る必要があります。団信とは「団体信用生命保険」の略で、返済中に死亡や三大疾病や重度後遺症などで支払い不可の状態となった時に保険金で残りを賄う保険です。団信に加入できる条件とは、健康体である事くらいですが、実は障害者のほぼ全てがそれで引っかかってしまいます。

告知書で申告せねばならない病気には、三大疾病(癌・心疾患・脳血管疾患)をはじめとする重い病気が並んでいる中で、「精神病」「うつ病」「知的障害」などがしれっと混ざっています。確かに精神疾患は、その場から動けなくなるほど重い症状が出ることもあります。だからといって、保険金を払えない人種として扱うのは極端ではないかというのが個人的な感想です。

なぜ団信があそこまで健康体にこだわるのかと言いますと、多くの健康な人から保険金を集めないと必要な人へ補償が行き渡らなくなるという、生命保険の宿命があるからです。与えられる保険金が無くなることは、保険会社にとっての「死」を意味するので、加入条件を設けたり満額補償を避けたりするのは、ある意味生存本能でもあります。

余談ですが、たとえ健常者であっても、プロボクサーやレーサーや高所作業員など、死と隣り合わせの職業に従事している人は保険会社によっては嫌われることがあります。自営業も審査に時間がかかりやすく不利だとも言われていますね。

さてもう一点。住宅ローンは就活と違って、「クローズド」が存在しません。手帳・診断・通院・服薬などを黙っていたとしても、既往歴や通院歴などは審査の過程で調べ上げられており、意味がないわけです。寧ろ、隠していると「告知義務違反」として悪印象を与えてしまうため、手帳のことはしっかり伝えておきましょう。

団信の攻略法

攻略法①銀行から選び直す
どの保険会社と繋がっているかは銀行によって異なります。従って、銀行が変われば審査する保険会社も変わります。審査する基準が変われば受かる望みがあるかもしれません。具体的には、保障内容が比較的シンプルなほど通りやすく、手厚い保険は通りにくい傾向があるようです。
ただ、現在進行形で精神疾患であったり、過去3年以内に大きな手術を受けていたりすると、ほとんどの保険会社に嫌われてしまいます。寛解や手術からだいぶ期間が経っている人向けの方法です。

攻略法②引受基準緩和型保険を頼る
兎に角ローンを組んで話を進めたいのであれば、一般の団信へ入れない人向けに基準を緩くされた「引受基準緩和型保険」を頼るのもよいでしょう。よく挙げられるのが、「ワイド団信」です。
ワイド団信はその名の通り、健康上に問題を抱える人のため審査を緩くした団信です。その代わり、金利が年0.2%~0.3%程度上乗せされるというどうしようもない欠点があります。このせいで月々の支払額が増え、住宅の選択肢が狭まることもあり得るでしょう。

攻略法③フラット35を頼る
「フラット35」ならば、そもそも団信に入らず住宅ローンを借りることが出来ます。そのため提示されている金利よりマイナス0.2%と若干お得に思えますが、保険がないため万一の場合が起こっても保障は一切ありません。他に何かしらの生命保険へ入り万一に備える形となりますが、団信には遠く及ばないと思います。保険らしい保険のない丸裸の状態を強いられるのが最大の難点でしょう。

攻略法④診断書に他の病名があるならそれを使う
手帳を交付されるときには必ず診断書を出してもらっている筈です。その診断書に発達障害以外の内容(不安障害や強迫性障害など)があるなら、それを理由として押し通した方がいいです。一部の保険会社は「発達障害は一生もの」を「一生治らない病気」と曲解している節があり、発達障害というだけで門前払いにしてしまうためです。不安障害などは「治る病気」として認識されているため、直近の診断書に記載されているなら堂々とそれで押し通してしまいましょう。

銀行を変えたり、伝え方を工夫したりして済むのであれば、それに越したことはありません。定型と同じ団信に入れるわけですからね。それが叶わなければ、金利の高いワイド団信か無防備なフラット35に頼ることとなります。なんにせよ、スピード勝負となる住まい選びに余計な手順を強いられる時点で、定型よりキツイことに変わりはないのですけれども。

賃貸はどうか

実家を相続できるのであれば物件購入で悩むこともないでしょうが、当然ながら誰もがそう出来る訳ではありません。実家との関係、地元の就職の当て、相続の優先度、地元で“老後”を迎えられない事情も数多くあるでしょう。そうなると残る選択肢は賃貸のみとなります。

賃貸には賃貸のメリットがあり、特に契約のしやすさとフットワークの柔軟さは挙げられやすいです。その一方で重大なデメリットとして「家賃」「契約更新」が挙げられ、特に定年退職した“老後”に重くのしかかってきます。

まず家賃は一生、定年退職した後もなお変わらず払い続けねばなりません。そのため老後に必要な貯蓄は必然的に多くなります。そして契約更新ですが、今はよくても高齢になるとどうでしょう。支払い能力を疑問視され、独身であれば更に孤独死リスクも追加されます。ゆえに別の住居への引っ越し、下手をすれば今いる住居の更新で拒まれるかもしれません。

なにも発達障害者に限った話ではないのですが、やはり収入面でのハンデが若い頃からの準備をより難しくしている側面が強いです。「足るを知る」ことは大切ですが、老後に崩れるようなものを「充足」とは呼びません。それは「不足」といいます。

参考サイト

団体信用生命保険に入れない病気とは?うつ病、適応障害、B型肝炎、子宮筋腫でも住宅ローンは借りられる?
https://diamond-fudosan.jp

ADHDと住宅ローン~通りやすい状態と通りにくい状態、団信を断られた時の対処法~
https://note.com

一生賃貸って後悔する?メリット・デメリット、検討すべき対策を解説
https://www.renoveru.jp

遥けき博愛の郷

遥けき博愛の郷

大学4年の時に就活うつとなり、紆余曲折を経て自閉症スペクトラムと診断される。書く話題のきっかけは大体Twitterというぐらいのツイ廃。最近の悩みはデレステのLv26譜面から詰まっていること。

発達障害

関連記事

人気記事

TOP

しばらくお待ちください