「誹謗中傷者を開示したらほとんどが発達障害だった」は本当なのか
暮らし
「誹謗中傷してくる奴らに開示請求してみたら、ほとんどが発達障害だった!」と得意げに語っている画像を見たことはありませんか?無駄にウケがいいのでそれなりに拡散されてしまった画像ですが、果たしてそれは俗説として正しいのでしょうか。
結論から申し上げますと、それは完全に出鱈目です。わざわざ「俗説」という最低ラインまで譲ってあげてもなお寸毫の妥当性も見られない、信じる方が恥ずかしいレベルの妄言です。デマや陰謀論と言い切ってもいいでしょう。そう判断した理由を今から説明します。
個人の医療情報は簡単にアクセスできない
額面通りに受け取れば、誹謗中傷してきた“複数の”者らを開示請求し、その者らが発達障害だと分かったという流れです。加害者らが発達障害だという証拠は、文面からだと開示請求にしか出どころがありません。しかし、開示請求で分かるのはIPアドレスや住所氏名までで、当人の属性まで明らかになりません。
そもそも、発達障害である証拠は極めて個人的な医療情報であり、医師法や個人情報保護法などで厳重に保護されています。そこらの一般人が簡単にアクセスできるような情報ではありません。百歩譲ってその発言が本当とするならば、証拠集めの為に不適切或いは違法な手段を、しかも“複数人”のぶん使用したことになります。
他の証拠としては、手帳や自己申告になるでしょうけれども、あくまで口頭でのやり取りに過ぎません。例えば謝罪してきた人が「僕は発達障害で~」などと言ったのを真に受けたのでしょうか。それはそれでピュアですね。
なんにせよ、加害者らが本当に発達障害なのかは開示請求程度では知りようがありません。それでも発達障害だったと自信をもって話せるのは、インモラルな方法で個人情報にアクセスしたか、口頭でのやり取りを真に受けたか、単なる思い込みか、この3択です。
公的で妥当なデータもない
誹謗中傷の加害者を分析したデータというのは、学術研究や警察白書が信頼性のあるソースとして挙げられます。それらでは加害者の年齢や性別や動機は分かっても、発達障害かどうかまでは分かりません。一般企業による調査でさえ、誹謗中傷と発達障害の関連性を裏付けるデータはありません。つまり、信頼性の置ける一次ソースやエビデンスといった命綱がない訳です。
一応、幾つかの研究では「加害者にも被害者にもなりやすい」という結果が示されています。加害者になり得るというだけで十分でないかと思われるでしょうが、少し背景を考えれば悪意や被害者感情による誹謗中傷とは毛色が違うことは分かります。発達障害による衝動性や対人距離による“事故”を受け手が「誹謗中傷された!“事件”だ!」と取った…という背景です。肥大化した被害者感情で攻撃的になっている面もあるでしょうが、別にそれは発達障害者に限ったことでもないですし。
人は信じたいものを信じる
そんな訳で「誹謗中傷者のほとんどは発達障害者」という放言に妥当性はなく、信じる方が倫理観やリテラシーといった面を問題視されかねないというのが結論です。切々と理論立てて説いたところで賛同者は「アスペ乙」だけで終わるのでしょうけれども、耳の痛くなる正論よりも気持ちいいデマのほうがよく聞き入れられるのは世の常なので仕方がありません。
ただ確かなのは、感情と共感が第一となる令和のネット空間において、理性より欲望を、真実より快感を優先する者は想像以上に多いのだということです。


