映画『クイーンダム/誕生』いよいよ公開。弾圧と束縛のロシアに生きるクィア・アーティストの「静かな叫び」とは
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© Courtesy of Galdanova Film LLC.
物語の舞台は、首都モスクワから約1万キロ離れた極寒の町マガダン。幼い頃に両親を亡くし、祖父母に育てられたジェナは、自身がクィアであることを早くから自覚し、保守的な社会の中で差別や暴力にさらされてきました。
ロシアではLGBTQ+への抑圧が著しく、街を歩くだけでも危険を伴う現実があります。そんな環境の中で、ジェナは沈黙ではなく“表現”を選びました。
日常を侵食する、無言のパフォーマンス

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スキンヘッドにハイヒール、身体を締め上げるテープや有刺鉄線をまとい、街頭やスーパー、地下鉄といった日常の空間で行われる無言のパフォーマンス。その姿は恐ろしくも美しく、見る者の感情を揺さぶります。
言葉を発さずとも、存在そのものが強いメッセージとなり、社会の無関心や偏見に静かに、しかし確実に問いを投げかけます。この独創的な表現はSNSを通じて世界中に拡散され、ファッション誌『VOGUE』への登場など、国境を越えた注目を集めていくことになります。
象徴としての姿と、ひとりの若者の葛藤
本作の魅力は、ジェナの“強さ”だけを描くのではなく、その裏側にある葛藤や迷いにも光を当てている点にあります。
・愛情を抱きながらも、理解しきれない祖父母との関係
・パフォーマンスを理由に大学を退学処分となる現実
・将来への不安と、終わりのない自己との対話
ジェナは象徴的な存在であると同時に、悩み、傷つき、それでも前に進もうとするひとりの若者です。監督アグニア・ガルダノヴァの親密で観察的なカメラは、その繊細な表情や沈黙の時間までも丁寧にすくい上げ、観客に深い共感を呼び起こします。
国家の圧力と、迫られる「未来」への決断

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物語は、ロシアによるウクライナ侵攻という歴史的な転換点とも重なります。反戦の意思を示すために公共の場でパフォーマンスを行ったジェナは逮捕され、やがて徴兵の危機に直面します。
出国までに残された時間はわずか。故郷や友人、そして愛する祖父母と別れるかもしれない現実の中で、ジェナは自らの未来を選び取る決断を迫られます。この緊迫した展開は、個人の自由と国家の圧力が衝突する瞬間を、圧倒的な臨場感で映し出します。
世界が称賛した、抵抗と希望の記録
プロデューサーには、国際的なドキュメンタリーで評価を受けるイゴール・ミャコチンが参加。彼の掲げる「映画は現実を包み込み、向き合うための手段である」という信念が、本作の隅々にまで息づいています。
ガルダノヴァ監督自身も、自身の経験を重ね合わせるようにジェナの姿を真摯に捉えました。その結果、視覚的にも政治的にも強いインパクトを放つ映像が生まれ、世界中の映画祭で観客賞や最優秀ドキュメンタリー賞など、数々の栄誉に輝いています。
結びに:自分らしく生きるということ

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『クイーンダム/誕生』は、特定の国やコミュニティの物語にとどまりません。「自分らしく生きるとは何か」「信じるもののために声を上げる勇気とは何か」。ジェナの選択は、観る者一人ひとりに静かで力強い問いを投げかけます。
日常の風景の中に、クィアであり、アーティストであるジェナが立つこと。その**“ただ存在する”**という行為そのものが、抑圧への抵抗となり、希望の象徴となります。
魂を揺さぶる91分間の体験を、ぜひ劇場で。本作は、ひとりの若者が“孤高のクイーン”として立ち上がる瞬間を目撃する、忘れがたいドキュメンタリーです。
映画『クイーンダム/誕生』 公式サイト
https://ellesfilms.jp/queendom/


