仮面女子のメンバー・猪狩ともかさんが国を提訴。後天的な障害者を作る責任は問うべきなのか
身体障害2021年5月11日、アイドルグループ「仮面女子」のメンバー・猪狩(いがり)ともかさんが国(文化庁)に対し提訴を行いました。猪狩さんは今でこそ「車椅子のアイドル」として知られていますが、そうなったのは元をただせば3年前の下敷き事故からです。
提訴の理由は「看板の管理責任」です。確かに看板の基盤を腐らせたままにしなければ事故は防げたでしょう。私はこの訴訟で「後天的に障害者を生む責任(あるいは罪)」も問われるのではないかと感じました。
訴訟について
2018年4月、湯島聖堂(東京都文京区)の敷地内にあった看板が強風にあおられて破損し、地上を歩いていた猪狩さんを下敷きにする事故が起こりました。これにより猪狩さんは胸椎を損傷し、車椅子生活を余儀なくされます。
看板の管理を委託されていた湯島聖堂とはすでに和解が成立しており、続いて委託側である国を提訴した形となります。看板が破損した原因は木製の根元が腐っていたためで、これを放置した管理者に責任を問うた訳です。
事故直後の猪狩さんは将来への不安を口にしていました。当時の心境を「いくら時間が経っても脚に感覚が戻らず、熱さも冷たさも分からない。自分の脚でないように思えた」「もはや事故前と違う体になり、仮面女子の活動はどうなるのか、戻ったとしてもこんな自分が受け入れられるのかという不安があった」と振り返っています。
現在は多くの人に支えられポジティブな発信を続けている猪狩さんですが「車椅子生活になったからこその新たな道を開けたのは確かですが、五体満足のままでいられるならそうありたかった」と述べている通り、車椅子になってからの「生き直し」が成功したことは今回の訴訟と別の話です。猪狩さんが再出発して軌道に乗っているのは結果論でしかありません。
後天的な障害者を生んだ責任
猪狩さんは提訴の理由について「私のように突然の事故で命や体の自由を奪われることがないように」と述べています。私見では、この訴訟では「後天的に障害者を生んだ責任」についても問われていると感じられました。
「後天的に障害者を生む」とは、例えば事故や事件の後遺症で身体障害を負わせたりパワハラや二次障害で精神疾患を負わせたりするような仕組みだと考えています。そして、いかに障害者への補償や支援が充実しようとも、後天的に障害者を生んだ責任を取らなくていい理由にはなりません。
むしろ、障害によって将来を閉ざされ不利になることの方が多いので、責任は必ず取るべきです。全障害者のうち何%が正社員となり経済的自立を果たせているのか考えれば、「でも障害者になって得しただろォ?」などと吐けないでしょう。
2014年末、名古屋大学の女子学生が知人の高齢女性を殺害した事件を覚えていますでしょうか。犯人の過去について幾つか報道がありましたが、その中に「後天的に障害者を生む」行いが入っていました。犯人は高校時代、級友の女子高生と同級生の男子高生に毒(硫酸タリウム)を盛って後遺症を負わせたことがあったのです。
女子高生の方は異変を感じてすぐ吐き出したものの視力低下で一時休学を強いられました。男子高生にいたっては視力と筋力の低下から入退院を繰り返し、やがて失明して特別支援学校へ転校させられています。同級生に毒を盛って特別支援学校へ転校させるのは、まさに「後天的に障害者を生む」行いの極致と言えるでしょう。
犯人はこれらの件についても殺人未遂で起訴され、裁判でこれを認められています。無期懲役が確定しており、これをもって「後天的な障害者を生んだ」ことについては一応のけじめをつけました。
今回の訴訟は、看板の管理責任ということで故意ではありませんが、後遺症を負わせたら謝らなければならないという流れを理解させる上で意義のあるものだと思います。
参考サイト
仮面女子・猪狩ともかが国を提訴「私のように突然の事故で命や体の自由を奪われる人がいなくなるように」
https://news.yahoo.co.jp
名大女子大生 応援団部員に「タリウム入りジュース」飲ます?
https://www.tokyo-sports.co.jp
身体障害