見えない後遺症、高次脳機能障害
暮らし
「高次脳機能障害」とは、脳の損傷による後天的な認知機能の障害を総称したものです。原因は脳卒中やくも膜下出血など脳血管の疾患に多いですが、他にも低酸素状態での脳損傷や交通事故などによる外傷がきっかけとなることもあります。ある当事者は、「脳内の回路が途切れた状態」と例えていました。
後天的な「見えない障害」である高次脳機能障害について、今回は整理してみましょう。
症状は多彩で人それぞれ
ひとくちに高次脳機能障害といいましても、その症状は多岐にわたり個人差も大きいです。なぜならば、脳損傷の部位や規模によって影響や後遺症もまた変わってくるからです。また、症状も1つとは限らず、複数の症状が複合的に表れる場合もあります。
症状が遅れて判明することもあります。退院後に初めて困難に直面したり、以前出来ていた仕事が出来なくなったり、日常で問題がなくても難しい契約になるとお手上げになったりと、入院中は分からなかった困難が社会でようやく分かる感じです。
脳疲労(神経疲労・易疲労)
発症前に比べて脳の情報処理にかかる労力が増えるため、脳が疲れやすくなります。周りから見ると、いつもボーっとしていたり動きが遅かったり、ミスが多かったりソワソワしがちだったりと、あまり良い印象は持たれません。ゆえに障害なのですけれども。
半側空間無視
視力や視野に問題はないものの、片側の認識が困難となる症状です。例えば、左側に良くぶつかる等の形で表れます。
失行
手足は動かせても目的に合った動作が出来ない症状です。道具が上手く使えなかったり、着替えが上手くできなかったりといった具合です。
失認
五感に問題はないものの、知っているはずの刺激が分からなくなる症状です。例えば、知己の顔を見ても誰なのか識別できない相貌失認などです。
失語
言語に関わる部分の損傷で失語症になるのも症状の一つです。ただ喋れないというだけでなく、喋れるけど人の話が理解できなかったり、読み書きの方に支障があったりと、これもまた症状が様々です。とにかく「言語」が関わるコミュニケーションに支障が出ている状態です。
記憶障害
記憶を保持し思い出すという作業が難しくなる症状です。発症前の記憶は無事で発症後の記憶に問題が生じるというパターンが多いですが、場合によっては発症前の記憶や経験にも影響が及んでいることがあります。特に、複数のことを一気に覚えさせようとすると上手くいきません。
社会的行動障害
感情や行動がコントロールできなくなる状態です。興奮しすぎたり行動に抑えがきかなくなったり、逆に自発性が失われたりします。こだわりの強さや空気の読めなさといったASDに近い特徴が出ることもあります。あちらは先天性の一生モノですけれども。
遂行機能障害
PDCAサイクルではありませんが、物事を効率よく進めるよう計画し実行するのも脳の働きです。これが影響を受けると、段取りや計画を立てられず行き当たりばったりになったり、計画外のことに対応するのが難しくなったりします。
注意障害
必要な情報へ意識を向け続けることが難しくなる症状です。注意を持続させたり対象をスムーズに選んだり、同時に複数の対象に注意を向けたりすることが特に難しくなります。上述の遂行機能障害と合わせてADHDに近い特徴と言えますが、やはりあちらは先天性という大きな違いがあります。
病識の低下
病識とは、自分の疾患を認識することです。自分を客観視するのも脳の高度な機能の一つですが、これが損なわれると「自分が以前よりおかしい」と気付きにくくなります。周りが異変を感じても本人はいつも通りと思っているため、検査へ繋げるのも苦労するでしょう。脳にダメージを負っていることが誰にも知られていなければ、人間関係にも悪影響が出ます。
リハビリについて
高次脳機能障害は不可逆的な損傷が原因となっているため、ダメージを受ける前に戻ることは出来ません。リハビリによって現状を少しでも改善することが主なアプローチとなります。また、症状が多岐にわたる以上リハビリの内容もまた多岐にわたり、場合によっては薬も併用されることがあります。
例えば注意障害なら注意手順訓練、記憶障害なら反復訓練、遂行機能障害には自己教示法などのリハビリが存在します。失語症には言語療法士がつくリハビリがありますね。いずれにせよ、完全な元通りにはならないことを認識する必要があります。
ある当事者の事例
実際に高次脳機能障害を抱える当事者がどのような生活をしているのか、過去のコラムから抜き出しました。
コラム内の当事者は、13歳の時に遭遇した事故の後遺症で高次脳機能障害となり、記憶障害・注意障害・遂行機能障害などが出ていました。特例子会社に就職する際、配慮事項として9項目を提示していましたが、そのうち5項目が「指示は1度に2つまで」「指示する人間は1人」「新しい仕事は1日に1つまで」など重複気味で、記憶障害への配慮が念入りに求められていました。
また、スーツやブラウスも集中力を削がれる(注意障害)との理由でNGとしており、服装の自由も求められていました。
しかし、コラムでも触れているのですがその特例子会社は経営陣の入れ替えを機に合理的配慮をやめてしまいます。合理的配慮をしない特例子会社に存在意義があるのかという疑問は置いておくとして、その当事者は全く働けなくなりました。その後の訴訟などの顛末は元のコラムを参照してください。
高次脳機能障害とは、“目に見えない”後遺症です。外から見えない障害で最も重い症状は“周囲の人間”であるとつくづく感じます。
参考サイト
高次脳機能障害とは
https://www.chiba-reha.jp
高次脳機能障害とリハビリテーション
https://www.sankikai.or.jp


