就労継続支援A型事業所の2017年ショック〜体験者目線で語る
仕事 ニュース 暮らし2017年4月の重大な法改正によって閉鎖に追い込まれる就労継続支援A型事業所が続出し、多数の障害者が失職の憂き目に遭いました。大規模な事業所では100人以上の失職者が出てニュースにもなりましたよね。給付費目的の粗悪な事業所を淘汰する為の法改正で、概ね目的通りに事は運んでいました。しかし、真面目に仕事を受注していた事業所の中にも巻き添えを食って潰れた所があります。A型事業所の生死を分けた強烈な法改正と、その巻き添えで倒産した事業所について、自分の体験談を交えながら解説していきましょう。
給付費目当ての乱立
法改正の前年にあたる2016年現在で、就労継続支援A型事業所は全国に約3450か所存在しています。同年のマクドナルド店舗数(全国に約2880か所)を上回るほどと言えば、お世辞にも少ないとは言えない数字と分かりますね。なぜマクドナルドより多くA型事業所が建ったのかと言いますと、給付費の存在があるのです。
A型事業所には職員の人件費や障害福祉サービスの運営費を賄う助けとして給付費(利用者1人につき約5000円/日)が支給されます。これは相当な額で、給付費を当てにして儲けようとする事業者が増えるのもある意味自然なことでした。事業者に小遣い稼ぎ感覚で教えるコンサルもいたくらいです。
利用者とは雇用契約を結ぶので、給料は最低賃金以上と決まっていますが、4時間勤務なのもあって給付費で十分に賄えました。雇用した障害者に仕事を与えなくても事業所を運営できる(その上儲かる)というイビツな構図が仕上がっており、実際にやることがない事業所も存在していたようです。
障害者への就労支援とは程遠い実態に対し、2017年行政は動き出しました。
行政からの喝
2017年4月、「利用者の給料を給付費から賄ってはならない」を柱とした法改正が行われました。元々給付費を利用者の給料にすることは禁じられていたのですが、この改正では指定取り消しなどの罰則強化でより強く禁じた格好となります。
仕事をろくに取っていない不真面目な事業所は廃業か指定取り消しのどちらかを迫られ、次々と淘汰されていきました。ここまでは行政の思惑どおりです。しかし、「事業所の仕事だけで利用者の給料を賄う」という付帯条件が真っ当な事業所をも苦しめていきました。仕事を受注しても最低賃金に届かないのです。
最低賃金のラインは月7〜8万円なのですが、多くの事業所で採用されている軽作業では月1〜2万円(B型事業所の工賃)が関の山で、とても事業収入だけでは届きません。新しい事業に着手しようにも、勤怠の不安定な障害者の集まる実働4〜5時間の事業所と分かって発注してくれるクライアントから探すのに苦労します。
企業努力も空しく結果が出なかった真っ当な事業所も、この法改正の煽りを受けて淘汰されていきました。
最期の5ヶ月
私がかつて居たA型事業所もそんな「真面目にやっていたが潰れた事業所」の一つです。そこはパソコンを利用した事務やライティングを主な業務としており、入って1年経つまでは緩い雰囲気でした。ところが2017年に入ってから(法改正が迫ったためか)ピリピリし始めます。職場環境の悪化から仕事ぶりのよかった利用者が次々と辞め、仕事も親会社の供給では足りずクラウドソーシングやアフィリエイトなど多方面へ模索をし、収益のため四苦八苦する姿が多く見受けられました。
職員も利用者も決して怠けていませんでしたが、創業2年の事業所へ発注される仕事は少ないまま、赤字は覆らず法改正から5ヶ月を前にした8月31日をもって閉所となりました。
このように、給付費ありきで運営していた訳ではないのですが、自力での収益が追いつかずに已む無く給付費から給料を捻出していた事業所はとても多いのです。
就労継続支援A型事業所に訪れた2017年ショックは、粗悪な障害者ビジネスに喝を入れた一方で障害者福祉に苛烈な市場原理を突きつけました。今や純利益のないA型事業所に生き残る余地などありません。
法改正から2年が迫っておりますが、失職した多数の障害者への支援は行き届いていると言い難い状況です。私の場合ですと、失業保険の終了と入れ替わりで就労移行支援を受け始めたものの未だ復帰には至っておりません。生き残った事業所も一般企業と変わらない以上、設立から10年持つかどうか分かりません。
第一、A型事業所とアルバイトがどう違うのか被雇用者側には理解しかねます。求人を探して面接を受けて合否を待つ流れはどちらにもあるのですから。
参考文献
食い物にされる“福祉” 障害者はなぜA型事業所を解雇されたのか-記事|NHKハートネット
https://www.nhk.or.jp/heart-net/article/11/
発達障害 身体障害 知的障害 精神障害 うつ病 その他の障害・病気